INTERVIEW 006 【後編】
GRADUATE
島影圭佑
株式会社オトングラス代表取締役
作る過程に参加して、身体が変わる感覚を味わってほしい
「モノに焦点を当てながらも、自分だけでモノを作るのではなく、他の人々を巻き込みながらプロジェクト運営をしていく点でタイプが似ている」という島影さんと赤羽さん。今回の対談を機に、新たなプロジェクトが動き出しそうです。
「身体が更新されていくのが最高に気持ちいい」
赤羽 :今取り組んでいる『OTON GLASS』のプロジェクトについて、あらためて説明していただけますか。
島影:『OTON GLASS』と「Google Glass」など他のデバイスの一番の違いは、研究開発の過程を開いた状態にしているところです。美術館のような空間で誰もがプロジェクトに介在できるようにして、実際のユーザーやお医者さん、撮影することで生じるプライバシーや著作権の問題を考える法律家など、様々な領域のステイクホルダーが関わっています。職能やポジションが違う人たちが、「自分たちが望んでいる社会は何なのか」を問い続け、その実現を加速する状態を構築することに務め続けることが重要だと思っています。
赤羽:プロジェクトを実施していく中で、モノ(=オブジェクト)は必要だと考えていますか。
島影:そうですね。様々な人が集まって、未来について議論したりする上で、自分が思っていた以上に『OTON GLASS』というプロトタイプに生命力があると感じています。
赤羽:生命力?
島影:僕は伊村(靖子)さんが解説文を書かれた『我々は 人間 なのか? – デザインと人間をめぐる考古学的覚書』をよく参照しているんです。自分たちが作った人工物とインタラクションすることにより、さらに自分の身体が変わっていく。その相互作用の進化の中で今が作られているという意味において、モノは人間の身体を変えるような力を持つ何よりも強いメディウムだと感じています。
赤羽:では、これからもプロダクトを作っていくのですか。
島影:でも『日本を思索する』はモノではないので。モノでも、何か体験できるものでも、それによって人間の身体が何か変わらないかなと考えています。
赤羽:身体が変わるとはどういうことかもう少し詳しく教えてください。
島影君自身がこれまでに何かを体験することによって変わった経験があるのですか。
島影:作品を作っている時は、自分の身体が変わっているというか、更新されている感じがしますね。見える世界が変わっていくのが最高に気持ちいい。
赤羽:その気持ちは分かります。作品を見たり、小説を読んでもいいのだけど、それを体験して何かしら認識が変わったり、島影君の言葉で言うと更新されたという感覚を、自分のプロジェクトを通して他の人にも味わってほしいってことですか。
島影:見ているというより作っている側ですよね。「作っている側に来いよ」というか。『OTON GLASS』のプロジェクトは、色々な方から「こうした方がいいよ」とアドバイスをいただくことが多いんですが、「いや違うよ。作る側に来て、一緒に考えようよ」と思うんですよ。
赤羽:分かった、分かった。Userになってほしいというよりは、Doerになってもらった上で一緒に作っていきたいってことですね。
島影:作る過程に参加してもらうことで、それを通じて想像力や見えている世界観が変わるんじゃないかと思っているので。
赤羽:『日本を思索する』の方はそういう目論見なんだろうなというのは容易に分かるけど、『OTON GLASS』は少なくとも外からの目ではそういう風には見えないよね。
島影:そこはまだ言語化できてないのかなと思います。
似たタイプの二人が始める新たなプロジェクト
赤羽:僕たちはタイプ的には似ているところがあると思います。二人ともモノに焦点を当てているんだけど、自分だけでモノを作るのではなく、他の人々を巻き込みながらプロジェクト運営をしていくというところが。
僕はあまり趣味がないんですけど、唯一の趣味といえるのが卒業生とプロジェクトを立ち上げることで。島影君とはやったことないし、実はこれまでやりたいとも思ってなかったんですよね。
島影:ひどいなあ。
赤羽:島影君が忙しそうだっていうのもあるし、タイプ的に似ているから、掛け合わしても船頭多くして…という話になっちゃうのが理由なんだけど。でもこういう機会があると、どうやって一緒にプロジェクトをやろうか、この人と何をやりたいかを考えるようにしていて、今日もどうやって進めようかとずっと考えていました。
僕は最近デザインメソッドに興味があって、その中でも2つの方向性があるのかなと思っています。ひとつは時間的コンテクストにおけるデザインメソッドの枠組みを考えるということ。それを考えるきっかけになったのは、先日プロトタイピングした、ソニーさんと共同研究プロジェクト。映像作家でもあるArtDKTの池田(泰教)君に一般的にいうところのビデオプロトタイプを撮ってもらったんですよ。
島影:それは高級すぎますね。
赤羽:池田君もすごく苦しみながら作っていたんだけど、出てきたものを見たら、ちょっと違う価値が見いだせたんですよね。
島影:なるほど。
赤羽:一般的にビデオプロトタイプというと、iPhoneで撮ってiMovieで編集するなど、プロトタイプを作るより簡単にかつ短期間でそれにできるだけ近い効用を得ようという手法ですよね。そこにある種の映像のクオリティを求めると、見えてくるものが変わることを今回実感しました。映像の価値というか、映像の持っている質というものがプロジェクトに与える影響は結構大きい気がします。
島影:確かにそうですね。
赤羽:ある時間表現の中にコンテクストをどう込めるかという問題と、それをオブジェクトとどう関連づけるか。デザインプロセスの初期の段階から、モノの存在と、時間表現の関連させていく方法について、少し考えたいなというのが最近の興味としてはとしてはあります。例えば『OTON GLASS』も一番初期の段階で、オブジェクトとして、普通の眼鏡が置いてあって、それと併置する形で使用シーンを扱ったビデオプロトタイプがあったら、もっと違う受け取られ方があったかもしれないですよね。
例えばダン&レイビーもビデオをかなり多用しているけれど、それらを映像的な視点で解読している人はいない。過去を振り返るリサーチからやり始めるのもおもしろいよね。
島影:おもしろそうですね。
赤羽:もうひとつは “空間的スペキュレーション”というか、コンテクストを空間的に表現する方法を探るのもおもしろいかなと。有り体に言えばワークショップをするとか、展示をして使ってもらうとか。『OTON GLASS』で実際のユーザーに使ってもらって意見を吸い上げるということをやっていると思うから、それも具体的な一例ではあるのだけど、もう少しメタというか、そこを体系化する方法がプロジェクトとしてはありえるかもしれないと考えています。
リサーチスルーでやりたいから、新たに何かそれほど開発に時間がかからないものをたてて、それを空間的にどう新しい方法論で提示していくか、ワークショプやユーザーテストをデザインプロセスの中で新たに考え直すというのがあるのかなと思っています。どちらに興味がありますか。
島影:どちらもおもしろそうですね。空間の方はインスタレーションみたいなものですか。
赤羽:いや、ゴールは全然見えていません。決めうちしないでリサーチからした方がいいかなと思っています。実際に実空間じゃなくてもよくて、抽象的に「空間的な」と言ってもいい。これまで展示する時は、空間構成をどうやって考えていました。
島影:その都度展覧会のテーマと予算に応じてですね。
赤羽:そこを変えていくプロジェクトをしたいですね。
島影:空間自体がどう作用するかを今一度考えましょうということですね。
赤羽:「映像」と「空間」、どっちの方向がいい?話していて僕は空間により興味が湧いたかな。
島影: 空間がどう作用するかっていうのは、僕にとっても新しいです。
赤羽:じゃあ、空間をやろう。それを1年後くらいにbet36体育在线-体育投注官网@にして出すということのを宿題にしましょうか。
島影:お願いします!