INTERVIEW 033 【後編】
GRADUATE
菅野創+加藤明洋+綿貫岳海
《かぞくっち》プロジェクト
テクノロジーの影の部分にフォーカスするのがアートの役目
2024年3月3日まで東京都現代美術館で開催されていたグループ展MOTアニュアル2023「シナジー、創造と生成のあいだ」に参加している菅野創+加藤明洋+綿貫岳海。NFT、ロボットなど新たなテクノロジーが社会にどのような影響を与えるかを探る作品を生み出している。
後編では、新作『野良ロボ戦隊クレンジャー』や社会におけるアーティストの役割などについて話を聞いた。
コンセプトは野良化した『かぞくっち』
小林:東京都現代美術館で展示している新作『野良ロボ戦隊クレンジャー』について聞かせてください。
加藤:『野良ロボ戦隊クレンジャー』は『かぞくっち』をアップデートしていく過程で、足りなかったもの、見えてきたものを3人で整理していて生まれてきた作品です。
菅野:3人でブレストしていると、非現実的なアイデアがいっぱい出てくるんですね。その中で出てきた、“野生のロボット”というワードが忘れられなくて。
小林:確かに、パワーワードですね。
菅野:「もしロボットが野生になったらどうなる?」「そもそも野生って何?」「野生になるための条件は?」と3人で妄想を膨らませていきました。
加藤:オンラインでミーティングしたのですが、すごく盛り上がって。気づいたら5時間以上経っていましたね。
菅野:お掃除機ロボットは、唯一家電になったロボットなんです。ロボットメーカー、家電メーカーだけでなく、おもちゃ会社など多種多様な企業が参入しているので、種類が豊富にあります。なおかつ、発売されてから20年以上経っていて、人々の生活にかなり浸透している。古いものや壊れたものがフリマサイトにたくさん出品されています。捨てられたお掃除ロボットが、野生化して自活し始め、5色集まって戦隊を組むという映像作品です。
加藤:戦隊と言っても、別に戦うわけでもないし、合体もしないし、悪役が出てくるわけでもないんですけど……。
菅野:人間社会にも通じる話なのですが、かつては最先端だったお掃除ロボットが、カメラがついたり、インターネットにつながったりと、新しい機能が追加された新機種が次々に出てきて、世代交代を余儀なくされる。旧式のお掃除ロボットが「俺も老けたな」「新しいものに勝てないな」と、家を出てフリーランスになって、自分で自分の仕事を作ろうとするみたいな設定です。
加藤:登場シーンで、彼らが居酒屋の客引きやあやしい配達の仕事をしているというところには、実際の社会問題を重ねています。
菅野:映像の中で、フリーランスとして彼らがやっている仕事は、将来的にロボットが担うであろう仕事です。未来を考えるだけではなく、古くなったロボットの哀愁やゴミ問題など無視できない問題に光を当てたいと考えました。
テクノロジーは資本主義と結びついているので、多くの場合商品を売るところまでしか語られない。ゴミになるところまではケアされていないのが現実です。だけど、テクノロジーの光の部分だけではなく、影の部分にも目を向けるべきだし、そこにアートの役目があるような気がしています。
小林:なるほど。
菅野:あとは、単純に外に出たいというのがあって。
小林:外?
菅野:展覧会場でのロボットって、シャーレみたいな感じだと思うんです。でも現実的には、ロボットは社会のどこでも見られるほど浸透している。いわゆるペットロボットは愛好家たちの家で大事にされているけれど、実はロボットに対して嫌悪感を持っている人の方が多いんじゃないかと思うんですね。
加藤:ロボットは自分の仕事を奪う存在と考えている人もいます。
菅野:カリフォルニアにUber Eatsと提携関係にあるServe Roboticsという会社があって、ロボット配送を試験導入しているんですけど、路上で立ち往生するロボットを面白おかしくコンテンツにしてtiktokに投稿している人がいて、僕は、ちょっとビリビリきてしまって。ロボットに対するマイナスの感情も、先ほど話したテクノロジーの影の一側面だと思うのですが、現実社会の中にあるロボットについてもっと考えてみたいと思いました。
隙のある作品の方が、鑑賞者の思考を深められる
小林:映像に登場するお掃除ロボットはどのように見つけたのですか?
加藤:フリマサイトかオークションサイトで探しています。けっこう面白いお掃除ロボットが見つかりますよ。マキタのバッテリーや強力なマグメットが取り付けられた魔改造ルンバもあって、「これ、メッチャ良い」と思ったのですが、競り負けました。
菅野:たくさんの”捨てられた”ものの中で、なるべくキャラクターのあるロボットを選んで、そこからストーリーを考えていきました。例えば、青いダイソンはネット接続でカメラが付いているモダンなものなんですけど、片輪が壊れていてぐるぐる回ることしかできない。だからいつも牽引されているんです。というように、オリジナルのコンディションから戦隊のキャラクターを設定していきました。
加藤:一番綺麗なのはマンダリンゴールドで、転売ヤーから買った新古なので、転売ヤーから逃げ出したという設定にしています。新しいので、これだけ動きがいいんですけど、海外モデルなので変圧しないと充電できない弱点があります。
小林:うちにあるルンバも10年以上前のものなので、だいぶガタガタで。ゴミを途中でボロボロ落としてしまったりする。
菅野:ああ、可愛いですね。
小林:そうなんですよ。全然帰ってこないなと思っていたら、途中で気絶していたりするんですけど、可愛くて捨てられない。もし息を引き取ったらさすがにどうしようもないのですが、ゴミを自動で捨てられるような高性能な新モデルに乗り換えたいかというと、そういう気にはなれない。
菅野:もはや人にしか見えない。
小林:お掃除ロボットとそれを所有している人それぞれに物語があるんですよね。
菅野:ロボットを使った作品は、最先端の技術を使ったキラキラしたものが多いんですけど、古いロボットを使うことで、社会がロボットに対して抱いている印象や問題点を作品に投影させることができたと思っています。お掃除ロボットを所有している人が多いということも、そうした感情を引き起こすトリガーになっていると思います。
小林:すごく面白い話ですね。工業製品なのだけど、それぞれが物語を背負っているというか。例えば保護猫の中で、選ばれる猫がいる一方で残されていく猫もいる。それと同じように、工業製品であっても、その中でどれを選ぶか、選ばないかで、その後の物語が変わっていく。選んでも何か起こるし、選ばなくても何かが起こる。
菅野:ロボットのシアタープレイという点でインスパイアされたのはBram Ellens『Robots in captivity』です。
鎖に繋がれて檻の中でもがいている大型のロボットアームがサーカスの象のように見えたり、鎖に繋がれた芝刈りロボットが、あと一歩芝に届かなくて。それがすごくお腹が空いているように見えたり。最後は狂ったようにガチャガチャに壊れていくんですけど、芝がずっと食べられず禁断症状が出ているように見える。
だから、ある設定を与えることで、見た人が自由に物語を作っていく。誤作動やハプニングが起こるほど、想定以上に面白くなっていく。そういうことに最近は惹かれますね。
小林:あらかじめ決められた結論ではない、ハプニングを含んだ作品の方が、鑑賞者が能動的に参加できるのかもしれないですね。
菅野:完璧なものを見せられると、人は思考停止してしまいます。だから少し余白というか、隙みたいなのを残して、そこから考え始めてもらう方が面白いなと思っています。
そこに惹かれるのは、僕たちが“へぼエンジニア”だからかもしれません。3人ともエンジニア的な能力は大したことはない。ある程度動くものを作れても、超一流企業の“最強エンジニア”たちほどの実力はない。だから、どうしても綻びが出てきてしまう。その綻びを生かして作っていく。
加藤:以前書いたコードを見直すと恥ずかしくなります。
綿貫:でも“最強エンジニア”たちとは楽しさを感じる部分が違うんですね。美しいコードを書くとかそういうことには興味がなくて、最終的なアウトプットがどれくらい面白いか、試しながら作っていくところに気持ちよさを感じている気がします。
菅野:そういう意味で、今回難しかったのは、映像作品は方向性を1つに決めないといけないところですね。
加藤:葛藤みたいなものが結構ありました。
綿貫:愛知県で2週間くらい合宿しながら作っていったんですが、バチバチに議論しましたね。最後のオチを決めるのにも数パターン作って、みんなで見比べながら意見を戦わせました。
加藤:ロボットが出会うところも、結構議論しましたね。「ここですれ違うのは違うでしょ」みたいな感じで。今回展示しているバージョンは、食パンを咥えながら走っていて角でぶつかるようなイメージのシーンだったんですけど、あれは別のバージョンをもっと試してもよかったなと今でも思ったりしますね。
コミュニケーションの中から作品が生まれる
小林:これからも3人での活動は続けていくのですか。
菅野:『かぞくっち』から『野良ロボ戦隊クレンジャー』につながったように、作品を展示することによって思わぬことが起こって、それを回収して次に繋げていくことに面白さを感じています。今はいくつかやりたいことがあるので、しばらく個人の時間を持ちたいなと思っています。
加藤:でも呼ばれたら多分行きます。
菅野:少し問題だなと思っているのは、このユニットにダイバーシティがないことですね。僕たち3人はIAMASの卒業で、全員日本人の男性で、比較的視点が近い。僕はヨーロッパにいることもあって、ジェンダーバランスにも敏感になっているのもあるのですが、もう少し多様性を持たせたい。
加藤:『Proof of X』の第1回も出品者は全員男性でしたね。
菅野:だから、IAMASに交換留学制度があることはすごく良いことだと思っています。先生にも学生にも外国人がいて、彼らとコミューニケーションを取ることが僕の海外に行くきっかけになりました。国内にいるだけでは見えていないものが結構あると感じるので、アーティスト?イン?レジデンス制度を復活させるのもいいんじゃないですか。
3人での活動がXでのやりとりからスタートしたように、コミュニケーションと取る、ネットワークを広げるというのは非常に重要だと思っています。
加藤:アルスエレクトロニカに行った時は3人で一つの部屋に泊まったのですが、創さんはパーティーに行っててほぼ部屋にいなかったです(笑)。
菅野:展覧会のレセプションパーティはすごく大事ですよ。一緒に展覧会に参加しているアーティストと一言も話さずに終わってしまうのは寂しいですよね。作品の話をしなくても、お酒を飲んで、踊って、同じ時間を過ごすだけでもインスピレーションを受ける。コロナ禍でレセプションパーティをやらなくなって、そのまま復活させないところが多いので、よくないことだと思います。IAMASは卒制展の後にパーティーしますよね?
加藤:やっていましたね。展覧会の後、ここが面白かった、ここは良くなかったという話ができるのは、作家としてはうれしいですよね。
取材: bet36体育在线-体育投注官网@[IAMAS]
編集: 山田智子 / 写真: 福島諭