INTERVIEW 035 【後編】
GRADUATE
冨田太基
デザイナー/2015年修了
ネガティブ要素からスタートして、新たなゴールを設計する
店舗や住宅?会場構成などの空間設計や、デジタルファブリケーション機器を活用した家具や什器などの設計?製作を行い、2024年に「FOLT」を立ち上げた冨田太基さん。IAMASとの共同研究として、仮説的な空間デザインシステム「kiosk」の設計や、文化施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」における屋外用什器「メディアラボ」の設計など、異なる背景を持つ組織や人々との共同制作にも意欲的に取り組んでいる。
後編では、設計建築事務所「TAB」での仕事や、IAMASとの共同研究を経て、現在取り組んでいる活動と展望を語ってもらった。
「Material Learning Farm」で協働のあり方を実験する
赤羽:先日、成果発表の展示を行った「Material Learning Farm(略称:MLF)」は、現在建築家の桂川大さん(「STUDIO大」主宰/建築家)と冨田くんが共同で企画して取り組んでいる実験的なプロジェクトですよね。 石、プラスチック(アクリル)、木といった、マテリアルとその加工を行っている企業との協働を通して、新たな可能性を探求している点が実践的で面白い試みだと思います。
このプロジェクトを始める経緯やコンセプトについて教えてください。?
冨田:きっかけは、IAMASでの共同研究でもお世話になっている藤工芸さんから、「安藤大理石さんという安八郡にある石屋さんが、端材を使ったプロダクトをつくりたいと言っているので相談にのってあげて欲しい」という依頼でした。話を伺ったところ、単純に端材の石材をベースにしたプロダクトを作りたいということだけでなく、プロダクト製作を通して若い社員のモチベーションを上げていきたいという思いをお持ちなこともわかってきました。安藤大理石さんの製作物は、最終的には建築の一部となるものが多いため、どんなも使われ方をするのかを想像できないままに加工を行っている場合も少なくないそうなんです。その問題を解決する一助として、自社プロダクト製作を企画し、その製作プロセスの中で若手社員に加工物の使われ方までを意識した製作を体験してもらい、仕事に対するモチベーションを上げてもらおうという意図を持っていらっしゃいました。
他社への聞き取りなどを通して、木工、プラスチック加工やその他のマテリアル加工を扱う会社も同様な問題を抱えていることが分かっていたので、最終的には1社単独で一つのマテリアルで考えるのではなく、石材、木材、プラスチックを扱う3社合同のワークショップをやることの方が意味があるのではないかと考えました。そのプランに3社の社長さんから同意していただいて、異なるマテリアルを組み合わせたプロダクト製作を試行するワークショップとなりました。
赤羽:具体的にはどんなワークショップを行いましたか?
冨田:一般的なワークショップとは違うやり方を取りました。
普通のプロダクト製作は、まず何を作るかを決めますよね。例えば「テーブル」や「棚」を作るというのは一番最初に決めて、その後に形やマテリアル、それらの加工方法を決めていきます。でも今回そのようなやり方を取りませんでした。
何を作るかを起点に考え始めると、マテリアルの組み合わせや加工方法が自ずと狭めてしまうという危惧を持っていました。また今回の取り組みでは、石材加工、プラスチック材加工、木材加工を分業で進めるのではなく、アイデア的にもそれを実現する加工的にも3社の活動を交差させなら進めることを目指しました。それを体現するために最初に行ったのは、3つのマテリアルを組み合わせて作った「テストピース」と名付けた手のひらサイズのオブジェクトを12個作ることです。
実際、それぞれの「テストピース」には名称も機能もありませんが、シンプルながらも3つのマテリアルの組み合わせという観点から見ると、一般的な接合方法の一つである「相欠き加工」であっても様々なバリエーションがでてきて、新たな発見がありました。また、この実験の過程では3社の間で様々なマテリアルや試作物が行き来することになりましたが、この物理的な交差もその後のワークショップを進行する上で良い効果を生んだと思います。
「テストピース」を作ったら、それらを観察した上で発展可能性がある要素を抽出します。その後。そこで抽出したものベースにした「ディテールピース」と呼ばれるものを12個つくります。「ディテールピース」は「テストピース」よりも大きめサイズとなるため、強度などをリアリスティックな問題を考えながら作る必要があります。最終的には「ディテールピース」で得られたものをベースに「プロトタイプ」としてテーブル、棚、照明、をつくりました。
最初に作るものを決めないで進行し、最後に具体的なものに落とし込んでいくという点では、一般的な方法とは真逆のやり方と言えますね。
今回の展示では、「テストピース」、「ディテールピース」、「プロトタイプ」のすべてを見せることにしました。最終成果だけではなく、そこに至るプロセスにも大きな価値があるものだと考えたからです。そのため、設計や製作の過程を示す設計図面や、失敗した制作物も展示することにしました。
赤羽:展示を通してどんなことを得られましたか?
冨田:まずは、ワークショップの参加者のモチベーションだと思っています。展示する=「外に見せる」ことで得られる外部からのフィードバックは大変貴重であるとともに、自分たちがやっている活動を外部の視点を通して再認識する機会となります。また、今回の展示を通して、鉄、アルミなど他の材料加工を行う会社との新たな協働の可能性を広げることになると思っています。
赤羽:「MLF」のプロジェクトを考えるきっかけにもなっている「廃材」の有効利用とコンピュテーショナル?デザインをかけ合わせる研究というのは、可能性は感じつつもまだ取り掛れていない研究領域でもあります。IAMASでも今後そこに焦点を当てた研究や、地元企業との共同研究をやっていきたいと考えているところです。
冨田:「MLF」をやっていて気付いたのは、「廃材」であって、そのまま材料にはできないということです。その意味で、まじで「廃材」は「廃材」なんですよね(笑)。「廃材」から家具だったり、ある程度の大きさのものを作ろうとするときは、まず「廃材」を使える材料にしなくてはいけない。これが結構大変で、なかなか売り物としてのクオリティが保てる材料にならないんです。そこの難しさはあると思っています。
赤羽:IAMASの廃材も解決できたらいいなと思っています。廃材の問題はあらゆるところで問題になってるわけだから、すごく特殊な環境での取組からはじめても、どこか他の環境に応用できる可能性がある。
冨田:大理石はお金をかけて砕かないと捨てられなかったり、木材は例えばタモ材とか、良い材であっても細かくチップにしないと捨てられなかったり、外部から見るともったいないなと思うことが多いです。こういう問題を内部?外部の両方の視点から取り組める共同研究をしていけたらいいですよね。
展示システム「kiosk」での会場構成と発展
赤羽:冨田くんはIAMASで展示システム「kiosk」をつくったり、展示の会場構成をいろんなところでやってきてるよね。
冨田:一番最初に会場構成をやったのは2019年の「おおがきビエンナーレ」ですよね。IAMASの研究プロジェクト「Action Design Research Project」のブースのデザインしたとき、これまでデジファブで作っていた「kiosk」の組み立て材をはじめて家具屋さんに発注しました。そこでようやく「kiosk 1.0」ぐらいになった感じでした。当時はまだシステマティックに設計ができていなかったから、組み立てるのが大変でしたが、間仕切りのない場所に個別空間を作る可能性は感じることができました。
赤羽:「kiosk」も更にバージョンアップしていきたいよね。
冨田:そうですね。そろそろバージョンアップしないと飽きてきちゃうんで。いまは全部、木を素材にしてますけど、異素材も入れることも検討していきたいです。
赤羽:「kiosk 1.0」の話があったけど、2.0以降?(笑)「kiosk」のクオリティが安定してきてからのIAMASでの展示だと「TOKYO MELODY 1984 坂本龍一図書資料展」(2023)、「フリースタイルの継承 久松真一図書資料展」(2024)をやりましたよね。これらの、会場構成で重視したことはどんなことですか?
冨田:「フリースタイルの継承」は、IAMAS図書館と研究プロジェクト「Art of Listening」の共同企画で、岐阜県にゆかりのある哲学者の久松真一を主題にした展覧会でした。院生の雨宮由夏さんと、図書館長の松井茂さんと話し合いながら、僕は会場構成を担当しました。岐阜市長良にある久松真一記念館でのリサーチをする中で探索的に展示が決まっていくプロセスだと図面の描きようがないし、そもそも久松記念館がまさに図面からはじまっていない場所ということもあり、「図面とかいらなくないすか」ということになりました。
赤羽:展示を実際に作っていく段階で、雨宮さんがフリースタイルで描き、展示物を置いていく、という感じだったのですか?
冨田:それもあります。雨宮さんには、会場を構成する各パートのサイズを決めてほしい、とだけ伝え、僕はそのサイズを守りつつ、什器デザインはフリースタイルでやるという方法を取っています。台もサイズと高さだけは決めておいて、材料は適当に見繕って買ってきたものをベースに、IAMASの廃材も活用しながら正にフリースタイルで作っていきました。
できた什器を見返してみると「あ、こういう癖でてるな」とか「この納まりのディテール好きだな」とか、自分の志向が見えてくるなど面白い発見もありました。
赤羽:IAMAS図書館の展示といえば、藤幡正樹《Light on the Net》の再展示もありましたね。
冨田:藤幡正樹《Light on the Net》の再展示では、設計するというよりは空間を整理するという感覚が強かったですね。実際には、《Light on the Net》の展示場所を決め、それに対応して本棚の場所の再設定と整理をする。また、展示と干渉する閲覧席を無くして、代わりに組み立て式かつ組み合わせ可能な什器を設置しました。これによって、作品の展示環境というだけでなく、作品を含む図書館内の空間をよりフレキシブルに使えるようにすることを意図して設計しました。そういう意味では、単純な展示だけにとどまらない、空間設計と言えるのかもしれないですね。
建築はネガティブ要素があるからうまくいく
冨田:もともと「フォルト」っていう響きが好きだったのと、字面的にこれがいいかなっていう感覚で名付けました。テニスで使わる用語の「フォルト」って(スペルはちがいますけど)あんまり良い味ではないので、ネガティブに捉えられるかな?とも思ったのですが、建築って、予算や既存の建物の制約(リノベーションの場合)など、ネガティブ要素を手がかりにデザインが決まることも多々あると思っているんです。好きなことが何でも実現できるわけではなくて、必ず何らかの制限=与件が与ある状態からのスタートになります。特に僕に依頼される仕事というのは、ネガティブからスタートするものが多いなと実感してることもあり、自分には合った名前かなと思っています(笑)。ただ僕の設計に関して言えば、このネガティブ要素は逆にその場所や空間の大きな特徴であると捉え直すことによって、設計の核にしていくということを行っています。その意味で僕にとってネガティブ要素は非常に大事なものです。
赤羽:これまで冨田くんの活動を見返すと、最初からゴールが決まっているものがほとんどなく、ぼんやりした依頼内容を制作通して明確にしていくというものが多いですよね。それは個人の活動や僕を含む共同研究や、「MLF」とのコラボレーションでも同様に思います。
冨田:振り返ると、これまで関わってきたプロジェクトは短期間で結果を出さなくてはいけないものが多く、そこでの活動を通してかなり瞬発力を鍛えられたと思います。
赤羽:冨田くんはデジタルファブリケーション機器を使えるデザイナーの第一世代で、作りながら考えることもできるし、自分でも試作も行える。それが瞬発力につながっているんだと思います。
冨田:そうですね。今後は、自分で試作できる状態をキープしつつも、一緒にやってくれる人を増やしていくことが大事だと思っています。多様なひとたちとの協働を模索し続けていきたいと思っています。
取材: bet36体育在线-体育投注官网@[IAMAS]
編集: 高森順子 / 写真: 福島諭