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さまざまな専門性が協働する環境をつくる-Action Design Research Project

IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。

赤羽亨教授、伊村靖子准教授
冨田太基(研究補助員)、伊澤宥依(RCIC技術支援専門職)

空間デザインシステム「Kiosk」を用いた「岐阜おおがきビエンナーレ2019」での展示空間の設営(2019年12月)

- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。

赤羽亨(以下赤羽) プロジェクトのキーワードとして、「プロトタイピング」「デジタルファブリケーション」「デザインプロセス」が挙げられます。この3つを統合させて、どのように新しいやり方を生み出せるかを主眼に置いています。デジタルファブリケーションは、すでに社会に浸透しはじめているわけですが、学術面ではさまざまな可能性が語られてきたものの、実際の産業や市場にはつながっていないところがあり、そこをどう橋渡ししていくかを研究対象としています。このプロジェクト以前に、プロトタイピングを主体として、同時にデザインプロセスを考えていくGangu Project(2005–2009)や、Advanced Design Project(2010–2014)、あしたをプロトタイピングするプロジェクト(2015–2018)をやっていたんですね。それらのプロジェクトで、電子玩具をデザインしたり、電機メーカーの人と新しいサービスを考えたりしたのを機に、プロジェクト内で実行しているデザインプロセス自体の新しさに気づくようになりました。ほかの企業との共同研究にも発展したのですが、デジタルファブリケーションの普及とともにそれも特別なことではなくなってきて、お互いのモチベーションや方向性の違いが見えてきたわけですね。

伊村靖子 設計や制作を中心とする議論のなかで、私は芸術学を専門としながら、しかも制作をする立場ではなく、過去の事例を参照して考えていく立場として、なぜプロジェクトに関わっているのかというと、「協働」という要素と関係していると思うんですね。アートにおいて協働を考えるとき、最近ではアートコレクティブのような活動形態が考えられます。ただ、アーティストの場合、コンセプトを伝えていくために、デザインの手法を用いながらも、そこに産業とは違うタイプの質や組織論を考えていくことが、表現につながっていく側面があると思います。その意味では必ずしもトップダウンの発想とは限らない。表現としてアートやデザインを考えていくときに、既存の制作プロセスや制作環境を利用しながら、それとは違う立場を取っていくということがどのように可能なのかを考えたいと思っています。20世紀後半以降、これだけ制作環境が変わってきたにもかかわらず、過去のパラダイムで評価していくシステムの限界を感じていて、このプロジェクトで実践している協働では、ボトムアップ的な制作環境がどう機能するのか検証していくことで、批評的観点を立ち上げたいと考えています。

冨田太基 私は研究補助員として関わっています。普段は設計事務所で働きながら、IAMASでもデジタルファブリケーションのある環境で働いていて、ずっと感じていたのは仕事と学校でやっていることが結びつかないということです。自分で試作して、作り方まで分かっていていけると思っていても、いざ仕事となるとそれを誰かに頼まなくてはならずコストが上がってしまい、実現しないことにもどかしさを感じていました。そんな問題意識があったので、協働で作るというキーワードは面白いなと思いました。自分ひとりでやっていてもクオリティが追いつかなくて、DIYで終わってしまう部分にもどかしさを感じていたので、藤工芸株式会社と協働でお互いが不足しているところを補いつつ、全体的なクオリティやデザインをボトムアップで実践できるところは、このプロジェクトの面白いところだと思っています。また、仕事では以前から藤工芸との関わりはあったのですが、学校という第三者が入ることによって、デザイナーと制作者という関係性が崩れ、ある意味カオスな状況のなかでKioskという空間デザインシステムをつくりながら、自分の立ち位置を考えさせられる、よいきっかけになっていると思います。

伊澤宥依 私は主に、IAMAS側で制作サポートを担当しています。前職もファブ施設に勤務していたので、デジタルファブリケーションには長く関わっているのですが、純粋にデジタルファブリケーションに興味をもっている人が少なくなってきているのではないかという実感をもっています。本来の製造業と個人でのものづくりがあまりにも乖離してきていて、今後どういう方向に進むのだろうと考えます。2020年度はbet36体育在线-体育投注官网@感染症の影響もあり、遠隔でのやり取りが見直されましたが、プロジェクトも変更を余儀なくされるなかで、データをもらえれば作れるという環境の意義は大きかったと思います。合板をカットするときに、最低限の調整で済むように、板取りを考えたデータを送るなどの配慮は、デジタルファブリケーションを使い慣れているからこそできる協働のやり取りだったと思います。

藤工芸株式会社でのKiosk のジョイントパーツの試作

- 学生はどのように関わっているのでしょうか?

赤羽 学生のバックグラウンドは多様で、前職がプロダクトデザイナーだった学生やエンジニアリング出身の学生、建築、コンピューテーショナルデザインに興味がある学生が履修しています。基本的にものづくりをする前提でプロジェクトをしていますが、必ずしも自分で何かを作った経験やデジタルファブリケーションを多用して制作したことがある人ばかりではなく、経験はないけれどやってみたいという学生が、チャレンジしている感じです。実際に、ボトムアップを実現するためには、それぞれ立場や行動原理が違うので、共通のモチベーションをどうやって駆動していくかが重要だと思っています。考えた末に僕が思いついたのが、環境をつくらなくてはいけないということでした。僕らの側に引き寄せるのではなく、向こうの側に引き寄せるのでもなく、「等しく違うもの」をデザイン環境として規定して、そこでプロトタイピングを通して何かをつくっていく。そこからまた、各自のところに持ち帰ればいいんだと。お互いが自分のエリアの外、重なったちょっと先にある、なにかのエリアを想定することが解決だろうと思っていて、それが「協働的デザイン環境」と呼んでいるものです。
具体的な話になりますが、デジタルファブリケーション機器を使う時、以前は、データは作成できても切り出しのときに精度があまり出なかったり、機械のメンテナンスが大変で切り出すまでにハードルがあったのですが、このプロジェクトを通して機械を整備したり、藤工芸と協働することで、そこはだんだん乗り越えられている気がします。だから、実際に制作するものの精度の面でも協働が成立し始めている。デジタルの情報共有に、モノを介したやり取りが近づいてきたかなと思っています。コロナ禍の不自由さによってそうせざるを得なくなった面もあるかと思いますが。
ただ、あえて否定的なことを言うと、今起きている協働はあくまで、何かを作ったことがある人が、その経験をデジタルデータや、それを基にした機械加工に置き換えることによって実現しているのであって、そもそも何かを作る経験が乏しい学生がアクチュアルな問題として理解することが難しいのも事実です。ものを作っていた人がコンピュータを導入していくのとは違う方向をどう考えていくかという観点は、このプロジェクトの課題を越えてしまうかもしれませんが、少なくとも、デザイン教育やデザインを考えるうえで、次の課題だろうと思っています。学生が経験のないなかで作り方を考えていくことを通して、そのような分野を開拓していってほしいというのが僕の思いです。

構成:伊村靖子

 
※『IAMAS Interviews 01』のプロジェクトインタビュー2020に掲載された内容を転載しています。