学生インタビュー:林賢黙(イム?ヒョンムック)さん(博士前期課程2年)
メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。
多様な境界を横断し、既存の領域に疑問を投げる
- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。
東京藝術大学音楽学部の音楽環境創造科という所で勉強をしていました。音楽環境創造科は他の音楽学部の学科と比べるとかなり特異な所でして、「音楽」という共通項を基に、美術、映像、ダンス、社会学などの様々な分野に興味を持つ学生が集まっている所でした。私も同級生や先輩、後輩たちから影響を受けていく内に、いつの間にか様々なフィールドを横断しながら作品制作を行うことが頻繁にありました。今振り返ってみると私はこのような色んなフィールドが交差する多様性の溢れる環境の中で研究を進めたいと考え、修士課程への進学を決めたのだと思います。
一方で、私は昔からピアニストとして活動をしてきましたが、2016年からは電子音響や映像などの電子メディアを伴う形態の作品を演奏することが段々増えていき、いつの間にか私の演奏活動にとってそれらは中心的な領域となりました。私は電子メディアを駆使する演奏者の私に、今以上に何が出来るのかについて一種の「自分探し」をしようとしたのです。
進学先を悩んでいる頃、IAMASの入学説明会があって早速聞きに行きましたが、もう一目ぼれしまして!(笑)。IAMASも「メディア」という共通項を基に様々なフィールドからの学生が集まっていて、そして、何よりも昔から好きだった作曲家の三輪眞弘先生がIAMASで教えていることに魅力を感じました。
- イムさんの研究は、現代におけるピアニスト、演奏家のあり方を考察?提案するものでした。さまざまな国の作曲家に直接連絡をとって、楽譜提供を依頼したり、新たな解釈で演奏することを提案したりしていましたね。
古典音楽と違って現代音楽の楽しい部分は作曲家が私と同じ時代に生きていることですね。現代音楽の領域では、演奏者と作曲家が演奏方式や解釈の方向などについて直接意見を交わすことも良くあります。交流する内に今までは考えられなかった演奏法や解釈について作曲家と演奏者がそれぞれ気づくこともありますね。このような経験を頻繁にしますと、一つの「正しい演奏」や「決まった解釈」なんて存在しないことにも気づくのです。それは作曲家がもう生きていない過去の古典音楽の演奏解釈においても同じはずだと思いますね。作曲家との同時代的な経験に触れる演奏者が増えるほど、音楽演奏における解釈に対してのより多様な観点と態度が増えるのではないかと思います。
- IAMASで過ごした2年間はコロナ禍と呼ばれる時期でした。様々な制限もあり、残念に感じたことは多かったはずです。けれど、もし、逆に良かったことがあったなら、それを教えてください。
コロナ禍以来、コンサート会場には観客がいなくなり、私自身もコンサートを催す意欲も段々減っていきました。その代わりに、私は逆にライブでないからこそできることに集中しようともしました。IAMASのサウンドスタジオで録画した演奏動画に様々な編集を加えてみたり、タイムベースドメディア?プロジェクトのみんなの協力の基で配信型のコンサートをしたりなど、ライブが出来ない状況を余儀なくされつつも、だからこそ普段は考えなかった様々なことを試せた時期だったとも言えるかもしれませんね。
- 最後に、修了後の進路や、作家活動の今後の計画を教えてください。
修了後には再び東京藝術大学に戻り、博士後期課程に進学する予定です。音楽研究科の音楽音響創造という所ですね。修了後にも電子メディアとの協演に主な興味を持ちながら演奏活動を続けていくつもりですが、ここ数年間様々な作品を演奏していく内にあることに気づきました。今まで欧米の作品は頻繁に演奏しつつも、日本人による作品は余り演奏していないことです。色々調べたら日本も欧米と同じく、昔から電子メディアとの協演のためのピアノ作品が作曲されてきたわけですが、ただそれらの演奏のための楽譜やメディア装置を手に入れることが欧米と比べて物凄く大変なのですね。博士後期課程での研究内容はこのような「大変」な作品たちを手に入れる旅程になると思いますね。うまくいくかは分かりませんが、IAMASでの研究もそうだったように、実際やってみなきゃ分からないでしょう!
インタビュー収録:2023年2月27日
聞き手:前田真二郎
※『IAMAS Interviews 03』の学生インタビュー2022に掲載された内容を転載しています。