学生インタビュー:山岸奏大さん(博士前期課程2年)
メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。
続けていくこと、言葉にすること
- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。
入学前は、東京理科大学で情報工学を専攻していましたが、かなり消極的な学生だったと思います。同級生はアルバイトやインターンなど、現場に近いところで実務経験を積む方が多かった印象です。一方で私は、技術を研鑽していくことには興味が沸きませんでした。そんな中で、たまたま声をかけてくれた同じ大学で建築を専攻している方との共同プロジェクトや、金沢美大の方とVRゲームを共同制作する機会に恵まれ、技術を磨くことより「それをいかに使うか」「何を作るか」という、デザインや企画に関心を抱くようになりました。この関心は、「エンジニアリング」の枠組みのみならず、複数の領域を横断するものでした。
卒業して社会に出るよりも前に、こうした関心をじっくりと掘り下げたいと思い大学院進学を考える中で、IAMASに出会いました。理科大→IAMASという経歴の先輩として、ライゾマティクスの真鍋大度さんがいます。まさに科学技術を「いかに使うか」についての新しい提案と言える活動を続ける真鍋さんが出た学校なら、何か面白いこともできるんじゃないかという期待の反面、不安も大いにありました。今となっては良い選択をしたと思っていますが、入学式に「イアマス?リンギング」の洗礼を受けたときには、「とんでもないところにきてしまった」と本気で落ち込みました。
- 在学中の制作や研究で印象に残っているエピソードを教えてください。
学部生のときから共同制作が好きだったので、新天地でも体力の許す限りなんでもやろうとしていました。また、美大出身の方に比べると制作の経験が少なく、入学時にはどこに向かっていきたいのか解像度が低かったので、コラボレーションを通じて他の人がどのようなことに関心を持っているのか、他方で自分は何に興味があるのかを考える機会にもなりました。
学生生活の中で印象深かったのは、論文執筆の際に指導教員の小林茂先生から、徹底して論文の書き方について指導を受けたことです。手を動かしている中で、自分の取り組みの方向性が明確になっていく実感はありましたが、言葉にしようとするとなかなかうまく説明がつかず、改めて解像度の低さを痛感しました。しかし、なんとか書き出したテキストをもとに、文中の整合性、そして文と文のつながりを意識しながら主張を整理していくうちに、自分が何に取り組んできていたのか、何が足りていないのか、次に何をするべきかが明確になっていくことを実感しました。修士の2年間で完全に体得できたとはとても言えませんが、これからも続けていく中でものにしていきたいです。
- IAMASでの取り組みで意識していたことがあれば教えてください。修士研究についても紹介してください。
研究の姿勢として一つ貫きたかったのは、言葉にできないものを「作り続ける」ことを通して形にしていくということでした。この姿勢は、入学前から行っていた「作字」の自主制作に通じます。以前から文字やシンボルの造形に興味があり、その興味がどこからくるのかを探るために、日課としての「作字」をしていました。その中で、作り続けることが「鑑賞者としての自分」を育てるという実感を得ました。
修士作品《Grasp(er)》では、画面上で手指を変換する表現に対して、「作り続ける」態度で取り組んでいます。当初、手指の動きを記録?編集することで新しいモーションデザインの手法を開拓するつもりでした。しかし、次第に記録された動き以上に、変換された身体を動かす最中の、曰く言い難い独特な体験に興味を持つようになりました。その正体が何かを捉えるべく、手指を変換する表現についてバリエーションを展開し、整理する中で試行と思考を深めていきました。
その末に、この体験のユニークな点とは「形が変化することで向き合っているものの正体が一度わからなくなり、再びわかろうとして動きの中から意味を見出していくこと」ではないかと考えました。研究の中ではそれを「grasp」と命名し、その面白さを伝えられるような体験を目指して《Grasp(er)》を構成しました。途中、何をやっているのか自分でもよくわからなくなるような苦しい時期もありましたが、最後まで貫き通せた経験は大きな財産です。
修士作品:《Grasp(er)》
- 修了後の進路や、今後の計画を教えてください。
広告代理店で、情報技術が関わる施策の企画?制作をする仕事に就きます。この業界の特徴的な職種として、コピーライターという仕事があります。外向きにはキャッチフレーズを書く仕事のイメージが強い仕事ですが、内向き、つまり作り手にとっては企画の横軸を通す一言を定める仕事でもあります。手を動かして形にすることも大切ですが、同時に今自分がやっていることを凝縮して言葉で捉えていくことも大事なのだと、IAMASの2年間を通して実感しました。仕事を通して、自分の取り組みを言葉にすることを身につけながら、他方で個人の制作も絶やさず、健やかに続けていきます。
インタビュー収録:2024年2月
聞き手:前田真二郎
※『IAMAS Interviews 04』の学生インタビュー2023に掲載された内容を転載しています。